「働いたら負け」なのか?生活保護の知られざる実態に迫る
何を考えているのやら、生活保護受給者や年金生活の高齢者や障害者たちを1か所のシェルターや施設にて、集団生活をさせろというツイートが相変わらず多いのです。例えば、これらのツイートです。
「そもそも今の生活保護が異常。数百人集団生活、テレビはプロジェクターで数百人に1個、風呂3日に1回、シャワーが流れている通路を歩くだけ、空調はセントラル、食事は炊き出し、スマホ無し、服は捨てたものが正しい生活保護。絶対になりたくない、に位置付けないと受けたい人増える」
「どこか収容人数少ない刑務所を改装して生活保護の人を集団生活させ、能力・性質・疫病によってランク分けして支給する物や金を分けた方がいい」
「生活保護なんて害悪すぎる。刑務所的な強制収容施設に全員まとめてぶち込んで集団生活させろ」
「生活保護は底なし沼で抜け出す意欲を失っている。生活保護から抜け出したいと思われるように集団生活をさせるとか、何らかのボランティア活動や強制労働を強いても仕方ないと思うのよ」
「今の年金制度は破綻するの分かっているから『年金支給止めて集団生活します。そのかわり国が一生面倒見ます』としてくれないかな。集団生活は、できれば個室老人ホームみたいなのがありがたいです」
「限界の生活保護もしくは僅かな年金で暮らす老人たちが、山奥の過疎地帯でネコを飼って集団生活をする。良いんじゃないでしょうか」
集団生活の方がコストがかかるとか、感染症のリスクが高まるとか、そういうことを度外視しても、彼らの主張の乱暴さが分かります。貧困者、高齢者、障害者を隔離生活させろというのは、一昔前、レストランや交通機関、学校などで黒人を隔離させた政策とほぼ同じです。アパルトヘイトじゃあるまいし。
いくらなんでも、こんなことは日本では実現しないと、楽観することはできません。すでに外国人や障害者が集団生活を強いられている事実があります。
ご存知の方もいらっしゃるでしょうが、精神科病院の入院病棟の大半はへき地にあります。近隣にスーパーもコンビニもバス停すらありません。シャトルバスかマイカー・タクシーでしか訪問できないのです。
それでも、精神科を退院したら自由になるのでしょうか?そうとも限りません。退院した患者の中には家族がいない、あるいは何らかの事情で家族と住めない人はグループホームで「集団生活」をさせられます。それもまたへき地にあって、買い物も外出もままなりません。その住人の多くは生活保護を利用していますが、金銭は管理されて、自由には使えない場合が多いのです。(金銭管理が難しい人も中にはいるのでしょうが)
もちろん、真っ当な精神科病院の方が多数です。しかし、東京の滝山病院や兵庫県の神出病院のように、患者に暴力を振るうスタッフのいる入院病棟も存在しています。これらの病院の内実は暴露されているのにもかかわらず、今も病院は存在して、入院患者もいるのです。
また、生活保護受給者は恵まれているのでしょうか?保護費を貰いすぎているのでしょうか?単身者だと東京23区で生活扶助が約7万円、住宅扶助が最大で5万3千円です。単身者は生活保護受給者の大半です。
そして、いまだによく引用されるのが、10年前の朝日新聞の記事です。母1人、小学生2人の世帯の生活保護費が計算されていますが、ずいぶんと誤解を招いています。
生活扶助219580円
住宅扶助54000円
教育扶助18000円
計約29万円
働いている世帯よりも多く貰っているのはおかしい、というのですが、実際にはいくら貰っているのか推定します。大雑把な数字です。
生活扶助130000円
住宅扶助54000円(実費)
児童養育加算20000円 (1人1万円)
計20万4000円
それに加えて、母親がパートなどで働いていたり、家族の誰かが障害者であれば、金額は増えます。子どもたちも高校生になればバイトをして、進学のための貯蓄ができます。そうだとしても、29万円というのはあり得ないと思われます。
そもそも、母子世帯になった経緯は不明ですが、仮に別れた父親が健在であれば、養育費を受け取る権利があります。その場合は、生活保護を受ける必要が無くなるか、生活保護費を減らすことができます。また、小学生の2人はいずれ就職をするだろうから、将来生活保護を母子共に抜けることができます。つまり、この生活保護は、意味のあるモノです。生活保護費をこれ以上減らすと、子どもたちの就職にも悪影響を及ぼすでしょう。
誤解があるのですが、生活保護などの福祉制度は、お上からのお恵みではないのです。誰もが社会的弱者になる可能性があり、その社会で生きる全ての人と社会全体を守るための負担です。言い換えれば、福祉とは一部の弱者を救済するものではなく、金持ちも貧乏人も何らかの形で恩恵を受けることです。ひとことで言えば「連帯」です。
誰が言い出したのかは不明ですが「働いた人が負け」というのは正しくないのです。生活保護受給者も、働ける人は働いていますから。作業所で工賃(時給)150円前後で。
もう一つ、実は生活保護受給者の多くは「満額」を貰っていないのです。何故なら高齢者や障害者は年金を受給しているからです。単身者で生活保護費(最低生活費)が12万円として、年金を7万円受け取っていれば、実質生活保護費は5万円です。だから生活保護費が財政を圧迫しているというのも疑わしいのです。
生活保護費は2013年に大幅に下げられています。それが憲法違反ではないかと全国で裁判をしています。これを「裁判やデモをする元気があるなら働けよ」との批判はあります。裁判を起こしている人たちは、自分の懐を増やすことのみで闘っているのではなく、大勢の受給者たちの代表として訴えているのです。生活保護について正しい理解をする必要があり、最低生活費は賃金などにも連動していることも頭に入れて置きたいですね。
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