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批評 「ルックバック」藤本タツキ 創作するということ

非常に評判が高いマンガ作品だと知り、ウェブ上で無料公開していたそれを読みました。その後、2021年9月3日に有料版が販売されたので購入しました。無料版と有料版の違いは後で述べます。

私はマンガはさほど読みません。勉強不足のために藤本タツキさんのことも知りませんでした。けれども、先入観抜きでこの作品を読めたのは、ある意味良かったことでした。

主人公の藤野さんはマンガを描くのが得意な小学四年生です。学年新聞で4コママンガを描いているのですが、不登校の京本さんの描く緻密な絵に圧倒されます。「4年生で私より絵がウマい奴がいるなんて絶対に許せない」のですが、顔も知らないライバルに負けぬよう努力をします。(藤野さんの、無言で絵を描く背中の描写が延々と続きます)

それでも京本さんの画力を越えられず、小学六年生で一度挫折してしまいます。その後藤野さんは、京本さんの卒業証書を届けるのですが、そこで京本さんの描いたデッサン帳の山を見て驚愕します。そうして二人は出会います。京本さんは藤野さんを「先生」と呼び、藤野さんの描いたマンガを讃えます。マンガを通して藤野さんと京本さんは(顔も知らないけれども)繋がっていたのです。藤野さんも再び創作意欲が湧くのです。(その日、雨の中ダンスをするような足取りで帰宅する藤野さんの絵が素晴らしい)

ここまでが物語の前半ですが、残りのストーリーは端折ります。京本さんが美大に通い、藤野さんはひとりでマンガを描いていたのですが京本さんがつるはしを持った通り魔に殺害されます。明らかに京アニの悲惨な事件を取り上げているのです。そこで無料版と有料版の差異があります。一言で言えば、無料版の通り魔は知的・精神障害者を連想されます。有料版では障害者を連想されない人物になっています。事情は分かりませんが、読者からの指摘があったのかも知れません。ポリティカル・コレクトネスの問題です。

藤野さんは、自分が京本さんを外に出したから悲劇が起こったのだと自責の念にとらわれて、京本さんの部屋の前で長い長い夢を観ます。もしも、藤野さんが京本さんの顔を見なかったら、という夢です。京本さんが生き延びたという夢です。

藤野さんは夢から覚めて、京本さんの死を受け入れます。そうしてまた、創作に励むのです。

文句なしに素晴らしい作品ですが、疑問点もあります。一つは二人の主人公の両親が登場しないことです。小学生、中学生の彼女たちを見守る両親が全く現れないのはなぜでしょうか。少年マンガではよくあることなのでしょうが、読後ひっかかるところです。 

もう一つ、物語のラスト、藤野さんの見る夢のシーンがオカルトになっていて、普通では説明がつかない場面があります。まあ、夢なのだからいいのかもしれませんが。ただシリアスな場面なのに、突然パラレルワールドのような描き方をされると、感情がストーリーに置いてきぼりにされてしまいます。これもマンガ的にはむしろ王道な表現かもしれませんが。

重箱の隅をつつくようにすると不満な点は出てきますが、藤本タツキさんの想い(追悼)と二人の少女の果てなき努力は強く伝わります。「創作」というのは孤独に耐えてひたすらに現実と闘うことなのです。私自身の人生も「ルックバック」させられるエネルギッシュな作品です。

 

#藤本タツキ #ルックバック