1996年に講談社漫画文庫で出版された、かなり古いマンガですが、「石の花」は今こそ読みたい本です。
第二次世界大戦でナチス・ドイツがヨーロッパ中に侵攻しました。そのときの旧ユーゴスラビアの物語です。ここから先はネタバレが多少あります。
主人公はクリロ・ペート。物語が始まったときは(おそらく)14歳か15歳です。新任教師のフンベルバルディンク先生が少々変わり者です。ある日、ポストイナの鍾乳洞をクラスメイトたちで見学します。その中には石柱が600万個もあって、そこにはとりわけ大きな、教会にも似た巨石があります。何百万年もかけて出来たものです。それを見たフィー、(クリロのガールフレンド)が「まるで花のようだわ。石でできた花」と感嘆します。先生は「君にもこれが石の花に見えた!素晴らしいじゃないか!これは石の花じゃない。花に見ているのはぼくたちのまなざしなんだよ!」と叫びます。この「石の花」と「まなざし」が物語のキーワードとなるのです。
その後、帰り道でドイツの戦闘機の襲撃を受けて、クリロ以外のクラスメイトは皆殺されます。体調を崩して病院で休んでいたフィーはドイツ兵に捕まります。フンベルバルディンク先生ははぐれて行方不明になります。
そしてクリロは山へ逃げてゲリラたち(といっても10人くらい)に合流します。フィーは強制収容所に閉じ込められます。ここからストーリーが過酷なものとなります。クリロのナチスとの「戦い」とフィーの強制収容所での「闘い」の始まりです。
クリロたちはやがてユーゴスラビア共産党のパルチザンと合流します。そこではチトー総司令官が軍を指揮しています。ドイツ軍とは兵力の差があるため苦戦を強いられますが、地の利を生かすパルチザンも奮闘します。その話と並行して、クリロの兄のイヴァンは二重スパイとしてパルチザンを支援しようとします。
戦闘シーンが数多く登場しますが、その描写がとてもリアルです。その中でも特に息を呑むのは、ネレトバの戦いです。
チトー率いるパルチザンは、隙間無くドイツ軍やイタリア軍などに包囲されます。戦力差がある上に、チフス患者や傷病者が多く、難民たちも合流しているため、下手をすれば全滅しかねない状況です。幅50メートルあるネレトバ川を渡るしかありません。チトーは傷病者や難民を見捨てることをせず、戦略上一度破壊させた橋に木切れを敷いて脱出を図るのです。
結果、犠牲者も多く出ましたが、包囲網から脱出できたのです。この戦いでパルチザンの勇名は上がります。その後、パルチザンはソ連やイギリスなどの支援を受けずに自力でドイツ軍を追い払ったのです。
さて、非常に登場人物が多く、魅力的なキャラクターも数あるのですが、戦場で敵兵を撃つことに悩むクリロと、強制収容所で懸命に生きるフィーの気高さには圧倒されます。意外と強制収容所を描いたマンガは少ないので、その意味でも貴重な作品です。ユーゴスラビアという複雑な国家を理解するにも役に立つでしょう。
そして、ずっと出番がなくて行方知らずのフンベルバルディンク先生の言葉がラストに光ります。でも、個人的にはそのラストシーンに少々不満があります。生死不明のキャラクターが多いことや、クリロが物語の終盤で、「敵はドイツ兵だけでは無い」と悟った後にパルチザンの上官と論議をするのですが、その内容には理解できる点もありますが、首をひねるところもあるのです。
とはいえ、幅広い年代の方に読んでいただきたいマンガであることには変わりません。ところで、アニメ化は難しいのでしょうか?ジブリとかガンダム、鬼滅の刃なんてもう飽きたし、つまらないでしょ?(観たことはないけれど)。私はまだ未見ですが、ネレトバの戦いはDVDがありますよ。
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